一頃から幕張メッセとかいう名称で賑やかになった辺りも当時は荒野のような地平線が続いていた。同じく列車通学のI君と私はいつも連結部のデッキに立って東京湾の彼方の富士を眺めていた。
遠の昔に名称変更してしまった黒砂駅から少し歩いた所のM中時代、昼休みや放課後の鉄棒仲間はN君とU君だった。爽やかな笑顔で下級生の女子からモテるN君はギターを爪弾きヨーデルも歌える多彩ぶりだが、鉄棒を掴んで大きくスイングしただけで優雅に円を描き始める彼の大車輪は、夕暮れの校庭に一際映えた。
一級下の彼のガールフレンドは評判の美少女、体育祭の出し物に学年の女子だけのダンスを彼女は最前列で踊った。白いブラウスに紺のスカートのプリーツが揺れた。曲は
ユーモレスク。哀しく美しい調べだった。
あれから数十年、いつものように喪中の葉書が舞い込む今日この頃、N君の訃報が届いた。心筋梗塞の由。余りに軽々とあまりに速く大車輪を回った挙句、遠心力で彼方に飛び出して行ったのだろうか。天空への道程にユーモレスクが奏でられているような気がする。
あの校庭の風景を共有した仲間達を偲びつつ、私は今だ人生の鉄棒にダラリとぶら下ったままだ。
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