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既に遥か彼方となった学生時代のこと。友人達の住まいの形態は、寮生の他は間借りの下宿などがまだ多かった。私の住まいは古い屋敷の庭に建てられたバンガローのような離れで、大家さんは御茶を教え謡曲を嗜む一人暮らしのお婆さん。 お蔭で窓の外は沢山の茶花がいつも咲いており、鬱蒼とした庭の木々で外界と遮断されたその住まいは、まさに桃源郷であった。 昼夜逆転してしまった私を訪ねて来る友人達は訪問時間をちゃんと心得ていて、夜半、うねった庭の小道でザワザワと木々に触れる音をさせながらやって来るので、すぐにそれと判った。一方、私の方で訪ねる場合は、困ったことに大概の大家さんの玄関は既に施錠されており、従って、明かりが点いている二階のその窓に小石をカチンと当てるのが、訪問の合図だった。 踊りのお師匠さん宅の二階に下宿していたM君の部屋は、本の量が本棚の容量を遥かに上回っており、居住空間にも積み重なった本の壁の隙間に辛うじて腰を下ろすのだった。 「呑む?」と言いつつ、スーッと開けられた押入れの中には、ズラーッとギネスの瓶が並んでいる。幾つものカンヴァセイション・ピース(話題の種になる品・肖像画)が部屋のあちこちに見事にアレンジされている中、禅林寺(永観堂)の「見返り阿弥陀」の写真(保田輿重郎の『日本の美術史』のグラビアだった由)がきちんと所を得ていた。修業の滞る永観に向かって「永観 遅し」と振り向いた姿なのだと云う。 アラジン・ストーブの青い焔とギネスの豊かな泡の中(気に懸かる事と言えば、倚り掛かると崩れ落ちる本の山だけで・・・)、書物や絵・音楽等の話題が延々と続くのであった。 そのM君が仙台を離れるに当たって本の整理をした。古本屋を何度もリヤカーで往復して崩して行った本の山の奥から、一匹の蝙蝠(こうもり)の屍骸が出て来た。ガラスの菓子瓶に入れて見たそれは、まるで一篇の象徴詩の様にも思え、愛用のイーゼルとともに私はそれを貰って帰ることにした。自分の下宿に戻り、庭の 山茶花の根元にそれを埋ずむべく、葉書に「カワホリ(蝙蝠の古名)君埋葬の儀」の旨をしたため、M君初め親しい友人達に通知した。 当日、数脚の椅子とポータブル・プレイヤーを持ち出したその鬱蒼たる庭で、M君送別の意も篭めたガーデン・パーティーはモーツァルトのピアノ・ソナタと紅茶の香に包まれ、暮れ行く春の夕べに山茶花の花片は、さながら紅雨のごとくに散り敷いていた。 ☆クイズ 文中、イギリスの女流作家の作品名①と、 イタリアの映画監督の作品名②があります。 共に魅惑的なそれらは、さて、どれでしょう? ★答 ①キャサリン・マンスフィールド作 『ガーデン・パーティー』(新潮文庫) ②ルキノ・ヴィスコンティ監督作品 『家族の肖像』 (英語版タイトル『Conversation Piece』) (「M高図書館報」January 20th. 2000)
by algosj
| 2010-10-02 10:41
| 校内誌再録
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