古来印度の言に曰く「北へ至る道は聖者の道」。雪山ヒマラヤを北方に戴く地勢にてはさもありなん。確かに新婚旅行・レジャーなど歓びの道はハワイ・沖縄等南国へ。一方、家出・道行き等決意の単独行は北帰行が定番。
かく言う私も何が哀しうてか、南方より北上の一途を辿っているつもりが、いまだ仙台で数十年。北へ帰る行程更に遥かにて、翼なき身なれば時折仙山線で山形か盛岡へしばし北上するのみ…。
その昔、高浜虚子の佳品「愛子」という女性が登場する短編連作に触れた仲間の一人、「仙山線に“愛子”という駅があるらしい。でもアヤシと読むそうだ」
早速実地に確かめに行った彼は、以来その沿線の風景に魅入られ、秋の頃が美しいけど新緑も良い、いや冬の雪景色もなかなか…と、すっかり仙山線愛好者。トンネルを抜けると面白山だったり、芭蕉ゆかりの山寺がこんな身近にあるなんて!等々、途中下車を満喫しつつ終点山形で降りては蕎麦を食い、ジャズを聴き、映画、書店、富貴豆…。
いつの間にかそんな仙山線遊びは、彼らが皆仙台を去っても私の中に沁み込んでしまった。仙台へ戻る帰路、ツマミとビールでウトウトする中、ふと彼らと共に過ごした頃を想い出すのである。
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