膝の上にその包みを抱えたストーヴァルは、アーチベリーの駅名を見上げた。一九四九年倫敦、骨董屋のウィンドウ片隅に見出した連隊生活思い出の壺を抱いて、彼は列車を降りた。かつて飛行場だった郊外のその場所に立ち尽くして思いに耽るうち、生い茂る草が突然強い風に吹き倒れる。カメラがゆっくりと上空にパンすると、爆撃機の編隊が次々と飛行場に降りてくる。
ヘンリー・キングの名画『
頭上の敵機』は、組織のリーダー像を描いて秀逸。リーダーの在り方によって如何に一つの集団がその技量を発揮しうるか。ただ、グレゴリー・ペック演ずる鬼の准将サヴェージに生じた突然の異変は、"Maximum Effort"がもたらす悲劇と個人の危機管理・心的ケアの問題をも暗示していた。「極限の努力」を集団と自らに課し続けたことによる神経の破綻、椅子に貼り付いたまま硬直した彼の“He's up there, flying the mission(精神は出撃している).”という様相は痛ましい。
助演男優賞の副官ストーヴァルを演じたディーン・ジャガーの抑えた演技も又秀逸。物語の枠としての彼の存在が丁度絵画の額縁の如く映画を縁取り、深い余韻を醸していた。
(500字)
Twelve O’ Clock High (1949 Henry King)